うつ病について
症 例 1 (Q&A)朝日新聞Q&A(飯森担当)より
Q) A男さん(25歳)は不眠 食欲不振 頭痛 腹痛 頭が働かない 不安で頭が一杯等の訴えで数件の精神科を受診し、うつ病と診断されましたが、抗うつ薬は出ずに、睡眠薬や抗不安薬の処方を受けたり、入院したりしました。しかし、一向に良くなりませんでした。どうしたら良い のでしょうか。
A)最近、このような患者さんが増えています。 「うつ病」 の診断は正しいと考えられましが、治療が不適切です。 うつ病には抑うつ気分、興味又は喜びの喪失、気力減退、思考力の減退なとの「精神症状」と、不眠、食欲の減退、頭痛、腹痛、関節痛、めまいなどの「身体症状」があります。
症状の面から「うつ病」を分類すると、
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精神症状が優勢なもの
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身体症状が優勢なもの
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精神症状 と 身体症状が共にあるもの
と 3型 に分けることができます。
うつ病の精神症状は、
抑うつ気分、興味または喜びの喪失、精神運動焦燥または制止
無価値感、過剰または不適切な罪責感、思考力や集中力の減退、
決断困難、死についての反復思考、(DSM-5から抜粋)
うつ病の身体症状は、
症 例 1 に対する考察
A)症例1は、③のタイプのうつ病と考えられ、この型の場合、身体症状の治療が十分になされていないケースが多く見られ、身体症状の改善がなされていない為に、医師-患者間のラポールが形成されず、不安症状やうつ症状が悪化している場合が多いのです。いくら不安症状が強いうつでも、抗不安薬だけの治療は不適切です。抗うつ薬と身体症状を改善する薬を適切に使用することが肝要です。
症 例 2 (Q&A) 朝日新聞Q&A(飯森担当)より
Q:58 歳の男性で、小学校の先生ですが、「口の中が塩辛くて死んでしまうのではないかと思う」「口の中がネバネバして夜もろくに眠れない」という訴えで、耳鼻科より紹介されてきた患者です。耳鼻科の味覚外来を受診し、精査加療したのですが軽快せず、心理的要因の関与が疑われて、心療内科紹介受診となった患者です。
A:このケースは、②の身体症状が優勢なうつ病が疑われます。うつ病には精神症状だけでなく身体症状を伴うもの(③のうつ病)があり、頭痛、腹痛、腰痛、前胸部痛、背部痛、四肢痛、肛門周囲痛等の痛みを伴うものが、全体の 6 割に認められます。その他、めまいや耳鳴り、味覚異常、咽喉頭異常感、しびれ感、胃部膨満感など様々な身体症状が報告されています。
この身体症状が優勢なうつ病は、通常、精神科以外の各科を受診するのが特徴で、その背後にある精神症状(抑うつ、抑制、不安・緊張など)を見落とすと、正しい診断がなされないまま不適切な治療を受けることになります。このように精神症状が目立たず身体症状が前面に出たものを精神症状が隠された(masked)うつ病(depression): 仮面うつ病 と呼びます。治療は他のうつ病と同じで抗うつ薬が投与されます。内科も 精神科もきちんと診られる心療内科の良い適応疾患です。